東京高等裁判所 昭和47年(ラ)696号 決定 1972年12月25日
抗告人 丸岡信用金庫
右代表者代表理事 池田松次郎
右代理人弁護士 棚村重信
相手方 株式会社トーキン
右代表者代表取締役 矢部行一
右代理人弁護士 安藤章
主文
原決定を取消す。
相手方の本件担保取消の申立を却下する。
抗告費用は相手方の負担とする。
理由
抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由は別紙のとおりである。
よって、右抗告理由について判断する。
相手方の本件担保取消の申立は相手方が抗告人(原告)と相手方(被告)間の東京地方裁判所昭和四六年(手ワ)第三〇一一号約束手形金請求事件の仮執行宣言附手形判決に基づく強制執行の停止を申請し(同庁昭和四七年(モ)第七〇五四〇号)、右停止のために立てた保証につき民事訴訟法一一五条三項による権利行使の催告を求め、担保権利者の権利行使のないときは右保証の取消を求める旨の申立であって、その理由は抗告人が差押及び転付命令(同庁昭和四七年(ル)第一一九六号、同年(ヲ)第四一六六号)によって前記手形判決に基く請求債権の満足を得たため、相手方の得た執行停止決定は不能に終り、かつ、相手方は右執行処分を取消したというにある。しかしながら、前記法条にいう訴訟完結とは、当該手続の形式的に終了したというだけでは足らず、将来においてより以上の損害が発生する可能性がなくなり、かつ既に発生した損害の判定についても支障がなくなった状態をいうものと解するのが相当であるところ、本件記録によれば、相手方の申立により強制執行停止決定が昭和四七年四月七日抗告人に告知せられた後において相手方は強制執行停止の申立全部を取下る旨の書面を東京地方裁判所に提出したことが明らかであるから、右取下書の提出が申請手続の終了といえるかどうかは別としてこれをもって直ちに前記法条にいう訴訟の完結した場合に該るということはできない。もっとも、右告知の日よりさきに、抗告人の申立により同年三月三一日付をもって相手方の本件外世田谷信用金庫に対し有する金九三〇万円の預託金返還請求権について前記債務名義に基く債権差押および転付命令が発せられ、右命令は既に第三債務者に送達せられておったことは記録上明らかであるけれども、前記仮執行宣言附手形判決は相手方は抗告人に対し金九三〇万円およびこれに対する昭和四六年一二月一日から右支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をすべきことを命じたものであって相手方のいうごとく、抗告人は右転付によって請求権の全部の満足を得たものとはいえないのである。
してみると、本件担保取消の申立は民事訴訟法一一五条三項の要件を欠き抗告人に対し権利行使の催告をするまでもなく却下すべきである。よって、これと趣旨を異にする原決定を取消し、相手方の申立を却下することとし、抗告費用は相手方の負担とし主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 綿引末男 宍戸清七)
<以下省略>